「矯正がしたいです」
その言葉は、嗚咽と一緒に出てきました。自分でも驚くほどの涙でした。
その日の診察は、歯の話ではなかった
久しぶりに自由診療の歯科を訪れたのは、矯正のためではありませんでした。
私は現在、全身性エリテマトーデスとシェーグレン症候群という膠原病の症状に悩まされています。関節痛、倦怠感、極度の便秘、ドライアイ、ドライマウス、舌痛症、味覚障害——。
以前から取り組んでいる吉野敏明先生の「4毒抜き」を続けながら、なかなか改善しないドライマウスや味覚障害の原因が、もしかしたら過去に神経を取った歯の慢性炎症(根尖病変)にあるのではないかと思い、相談に行ったのです。
歯科医師の答えは「原因である可能性は低い」というものでした。治療を勧めることもなく、「舌痛症は気にしすぎると余計に痛くなることがある。気にしすぎないようにするといいですよ」と。むやみに治療を進めてこない先生を、改めて信頼しました。
「なんの縛りもなければ、何がしたいですか?」
そこで先生は話題を変えました。
何に興味がありますか。何をしている時にリラックスできますか。幸せだと感じますか。なんの縛りもなければ、何がやりたいですか——。
歯とは全く関係のない問いかけでした。先生は心理療法にも取り組まれているので、そういった会話をしてくださったのだと思います。すぐには答えられませんでした。でも先生は、答えられなくても大丈夫と、時間を取ってくれました。
健康や美容に興味があること。お風呂に入っている時が一番リラックスできて幸せなこと。そんなことを答えながら、「なんの縛りもなければ何がしたいか」という問いが頭の中をぐるぐると回りました。
その瞬間、涙が溢れてきました。
嗚咽しながら「矯正がしたいです」と答えました。先生もびっくりされていました。
ずっと、諦めていた
矯正をしたいという気持ちは、ずっと心の奥底にありました。
でも言えなかった。治療費だけで時が止まるほどの金額だったのに、そこに矯正まで加えることは、最初から諦めていました。
先生は「僕は矯正の話はしてあげられないけど、話だけでも聞いてみますか?」と声をかけてくれました。そのひと言で、奥様(矯正担当の先生)が急遽時間を作ってくださいました。
過去の検査で撮影した写真やデジタル画像を見ながら、私の歯の状態を説明してくれました。
開口で上下の歯が噛み合っていないため、奥歯に物凄く負担がかかっていること。歯が内側に倒れていて口の中が狭くなっていること。上の歯が前に出ているため、抜歯して下げる方法か、全体を下げる方法かという選択肢があること。
「年齢は動きが遅くなることはあるけれど、関係ないですよ」という言葉も、背中を押してくれました。
他の患者さんのビフォーアフターの写真ファイルも見せてもらいました。私と似た歯並びの方が、綺麗に整っていく写真を見て、胸がワクワクしました。
それでも、即答はできませんでした。お金のことが、頭をよぎったから。
今しなければ、後悔する
「やって失敗したことより、やらなかったことへの後悔の方が大きい」
どこかで聞いたその言葉を、自分に当てはめて考えました。
今しなければ後悔する。今が最後のチャンスだ。
収入は高くありませんが、身の丈に合った生活をして蓄えたお金を、長年悩み続けた歯の治療に使おうと思いました。
それから、もう一つ。開口は奥歯に負担をかけ続け、将来歯を失うリスクが高いとも言われていました。せっかく虫歯を治したのに、別の理由で歯をなくすなんて嫌だ。その思いもありました。
後悔はありません
日々の歯への不安——治療しても増え続ける虫歯、いつまたどこが痛くなるか、銀歯の中から漂う不快なにおい、治療したはずの箇所の変色。そんな悩みを一つ一つ手放していくうちに、最後に残ったのはこの思いでした。
ガタガタの歯並びを治したい。
綺麗に並んだ歯で笑って、人生を終えたい。
踏み切ってよかった。心からそう思っています。
矯正を始めてみて
マウスピース矯正の痛みは、想像以上に少なくて驚きました。新しいマウスピースに替えた後の2日間、食事の時に少し痛むかな、という程度です(今のところ)。
大変なのは痛みよりも、話しにくさの方です。上顎にアンカーをつけて全体を後ろに引っ張っているため器具が舌に当たり、さらに開口を改善するために口が完全に閉じないようなマウスピースの作りになっているため、会話中に何度か聞き返されることがあります。
でも、少しずつ奥歯が動いて歯と歯の間に隙間ができ、食べ物が詰まるようになりました。普通なら不快なはずなのに、「着実に動いているんだなあ」と嬉しくなります。
食いしばりが強く年齢もあるので動きは遅いと思っていましたが、ほぼ予定通りに動いていて、先生もびっくりされていました。もしかしたら、4毒抜きを続けているからかもしれません。
矯正が終わったら、上下の前歯で食べ物を噛み切れるようになりたい。それが今の目標です。

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