歯磨きは、食べかすを取るためじゃなかった。

かかりつけの歯科の先生が亡くなられ、医院が閉院することになった。

新しい歯科を探すことになって初めて知ったのだが、歯科医院の治療方針というのはそれぞれずいぶん違う。最新機器を揃えてインプラントやセラミックを得意とするところ、歯を削らない・抜かない治療を方針にしているところ……こんなに違うものかと驚いた。

新しい歯科医院で初診を受けたとき、歯科衛生士さんにこう聞かれた。

「これまで歯科で歯磨きの仕方を習ったことはありますか?」

習ったことはない。というか、歯磨きの仕方って習うものなの?

小さい頃から歯の悩みはあった。でもこのとき初めて、ちゃんと歯と向き合おうと思った。

その日から、ネットで歯磨きについて調べ始めた。手鏡を使って磨き残しを確認するようにし、毛先が尖っていないワンタフトブラシで1本ずつ丁寧に磨き、染色剤で磨き残しをチェックするようにした。

それだけでも、口の中のさっぱり感がまるで違った。「ちゃんと磨けてる」という感覚が初めてわかった気がした。

でも、もっと良い方法があるんじゃないかと調べ続けているうちに、前岡遼馬先生のブログ「デンタルハッカー」の記事が目に入った。

タイトルは——

「歯医者にも出来ない⁉️ 本当に正しい歯磨きの仕方」

歯医者にも出来ない……?

衝撃だった。

記事の冒頭にはこう書いてあった。

「出だしから衝撃的な話になりますが、今まであなたが教えてもらった歯磨きの仕方は、だいたい間違ってます。そして、実は歯医者って歯磨きが下手なんです。」

学校で習ったバス法、テレビCMで見るポケットの汚れをかき出す磨き方——みんながそれを信じてやっているのに、だいたい間違っている?

疑問が次々と湧いてきて、気づいたら時間を忘れてブログを読みふけっていた。

そして知った。歯磨きの「本当の目的」を。

「歯磨きをする目的、それは……歯の表面についているプラーク(細菌の塊)を取り除くこと。そして、虫歯を予防するのではなく、歯周病を予防するために行うのが正しい認識です。」

食べかすを取るためでもない。虫歯を予防するためでもない。

プラーク——細菌の塊を取り除くために、歯磨きはある。

でも正直、すぐには飲み込めなかった。

食べかすが時間が経つとプラークになるんじゃないの? 口の中に残った食べかすで虫歯になるんじゃないの?

頭の中がちょっと混乱した。だからこそ、続きが読みたくなった。

さらにブログを読み進めると、「間違っていたこと」がどんどん出てきた。

歯磨き粉は、なくていい。
どの歯磨き粉を選ぶかばかり考えていたのに——そもそも必要なかった。泡が立つと、ちゃんと磨けているかどうか見えなくなるからだ。

力は、思っている以上に弱くていい。
力を入れているつもりはなかった。でも先生のブログでは、割り箸と歯ブラシを使って視覚と感覚で適切な力加減を説明してくれていた。必要な力は、自分が思っていたよりずっと弱かった。

歯ブラシは、シンプルなもので普通の硬さでいい。
高機能な歯ブラシを選ぶ必要はない。

45度に傾ける磨き方では、磨きたいところに届かない。
歯と歯茎の境目にプラークをためないためには、歯ブラシの毛先を歯に対して垂直に当てる必要がある。

歯を「8面」に分けて考える。
歯を上から見たとき、8つの面に単純化して歯ブラシを当てていく。角度を変えながら、歯ブラシの「つま先」「真ん中」「かかと」を使い分ける——「かかとを使う」なんて、考えたこともなかった。

知らなかったことの連続だった。

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